ヒアラブルは音のウェアラブル、音に妥協しない
こんにちは、山本です。今新製品開発の追い込みに入っています。
NA2は形状はイヤフォンですが、概念としてはヒアラブル = ウェアラブルの一つとして開発しています。ウェアラブルとして求められる通知機能は重要ですが、ヒアラブルである以上聴覚の製品であり、音の品質も同様に重要です。
その一環として、年末から音質調整作業を進めています。イヤフォン製品で最も大事な部分であり、難しい作業であり、楽しい作業でもあります。
NA2もNA1もQualcomm社のCSRシリーズのチップを使っていますが、2016年の夏頃(もう1年半前)にはその音質調整にもなれていなかったので、深セン工場のサウンドエンジニアが調整し、それを試聴する、ということを繰り返して音を作り込んでいました。ただ、何度も繰り返し追い込むのには、ある程度時間的な妥協が必要になります。
NA2は自社でソフトウェアを作り込んでおり、大分慣れて自分たちで作り込んでいっているので、やっと自分たちで好きなようにいじれるようになりました。NA2は完全サウンドチューニングは、日本で時間をかけ、自分たちですべて行っています。
調整プロセス
本格的にやるには
- リファレンス楽曲をピックアップ
- エンジニアが音質調整
- 無響室でホワイトノイズを再生して、周波数特性に異常がないかを確認
- ポテンシャルユーザーに聴いてもらって、意見を聞く
といった流れを繰り返していくのですが、自分たちの好み、どう調整されるべきか、という把握するために。会社のメンバー全員で2の作業を進めています。
その中で、一旦極端に振ってみようと考えて、思い思いにチューニングしてみました。。
とりあえず遊んでみる
好きな音楽でEQ調整
あまりにメンバーそれぞれ好きな音楽の方向性が違うので、好みの曲が、好みの音で聴けるか、という観点でチューニング。。
客観的に聴いて、商品化はできないな、とは思っているものを紹介。それぞれ個性が出てくるので非常に面白い。
熊谷
山本が聴いた感想としては、ロックな印象で。元々NA2のドライバーは10mmで音圧が結構あります。きちんと耳に密着すると、低音量が出てくるので、その量を抑えつつエッジを立てることで、ヌケ感を出している感じ。低音が無いわけではなく、Fenderのギター的な音かも。
何を聴いてチューニングしたのかは聞いてないですが。スピッツとか、欅坂とかではないかな?
片瀬
ボカロで聴きたい音に合わせてチューニング。これはかなり個性的な音。でも悪いわけではなく、聴きたい音がこれだ、という意図がすごいはっきりしている。チューニング的には鳴りがよいマーシャル的というか、もこっとしているが、ちゃんと抜ける、という面白いチューニングでした。
山本
すごい極端なチューニングに見えますが、自分はカナルでも耳を埋めずに使ったり、比較的小さな音量で聴くことが多いので。そのときにはっきりリズムや音楽の特性が聴ける、ボリュームを上げるとガツンと来る、というところを意識したチューニング。特にこだわったのがベースラインで、ベースラインの粒、乗りがはっきり聴ける、その上で繊細な余韻の空間が拡がる、というのを意識したものです。
製品版のEQは、全然違うセットアップになってますね。
サウンドポート
それぞれの製品で、それぞれの調整が必要になってきますが、今回調整に難航しているのがサウンドポート。これは金型にも影響してくるため、一度決めると簡単に変えられないという厄介な部分。
ただ、そのサウンドポートが余韻や、空気感、音圧感に大きく影響してくる。
今回採用している10mmのサウンドドライバーは口径が大きく、6mmに比べてふくよかさの余裕感があり、うまく調整していきたいと思っているのですが。その分空気を大きく動かすので、サウンドポートの余裕がないと鼓膜への負担が強くなり、抜けが弱いと自塞感が出てしまう。
現在当初設計したサウンドポートをベースにEQ調整を進めていますが、サウンドポート、イヤフォン部の調整をしていて改めて思ったのは、オフィスに高精度な3Dプリンターを設備投資しないとなと。もちろん、素材などで音はどんどん変わっていくのですが、つけ心地や鼓膜への負担感、ヌケ感等の確認はやっていけるはずなので。
基板、部材、3Dプリンターをもっと効率的に作れる環境があれば、もっといいものをもっと早く作れるはず。。丁寧さ、粘り強さをさらに高速にする、ということはグローバルで競争する中での日本人としての競争優位性になると思っているので。資本と環境がいれば、実行できるメンバーは揃っているので、世界で最も最高のプロトタイプを早くできる環境がある会社にしたい。
音質チェック
音の調整は、いくつかリファレンスを決めて進めていくことになります。NA2の大きな特徴が音声による通知になるため、音の調整として最も大事なものは音声合成の再生品質になります。
1. 音声合成でのチェック
ネインの製品で採用している日本語の音声合成は、HOYA社のVoiceText Risaになります。VoiceTextの中でも音声ガイダンスとして聞き取りやすいため、そのまま使っています。他の製品や音声ガイダンスで同じ声を聞く機会があるかもしれません。
基本的には、音声合成がきちんと聞き取れるか、というベースラインは音質調整で抑えていきます。
2. リファレンス曲でのチェック
チューニングする際に、音の鳴りを一つ一つ確認していくためのリファレンス。この製品で鳴らしたい音の方向性を決めるというよりも、音の調整、音を鳴らす商品として成立しているかのチェックに使っています。
いろんな視点で曲を選んでいきますが、それぞれチェックしたい目的が違います。音をチェックするときは、音を鳴らす品質のチェックと、音楽としての感情的なチェック、音を聴きたいリスナーとしてのチェックの3段階があります。
音を鳴らす品質は、純粋に必要な音が鳴っているかどうか。できるだけ感情を消して音の鳴りに集中します。この作業は製品品質として問題がないか、という確認になりますし、狙っている商品像、音質を確認する根幹の作業になります。
音楽としてのチェックは、音が鳴っている上で、普段自分が感動を覚える曲が、改めてその感動を蘇らせてくれるか。感動しないと、何か鳴っていなかったり、他のイヤフォンの鳴り方の方がいいということになるので、違いを確認した上で、修正していきます。その際に他社のイヤフォンをリファレンスにし、比較調整も行っていきます。オンキョーパイオニア社、SONY社、オーディオテクニカ社、ZERO AUDIO社、final、Beats、Apple等など。開発しているのはヒアラブルですが、イヤフォンとして狙っている値段感で、他社に負けない音作りも意識しています。
リスナーとしてのチェックは、自分たちの感覚が、ユーザーが求める感覚とずれていないか。という確認になります。音が好きが故にこだわってしまうと、モニターヘッドフォン、DJヘッドフォン、HiFiリスナー向けヘッドフォン、フラット再生を目指したヘッドフォンなど、音のプロフェッショナルに近い音作りだと、一般人には物足りなかったり、変な音に聴こえてしまうため、感覚のずれがないように調整していきます。
全体的な鳴りのバランス感
重低音の粒立ちや鳴り
ボーカルの響き
ライブな余韻
デッドな余韻
重低音の鳴り
ベースの鳴りとノリ
ベースの鳴り、ライブな響きのバランス
聴きたい音が鳴っているかの確認へ
NA2のメインのターゲットユーザーは10代〜20代。でも、製品を開発しているのは20代~40代。30代を超えてくると耳も衰えてくるので、フレッシュな耳で、鳴ってほしい音が鳴っているか。聴きたい音が鳴っているか、という観点での評価が必要になってきます。
10~20代といっても、聴きたい音は様々になります。これからやりたい作業として考えているのは、音を表現するアーティスト及びそこに準ずる方々と詰めていく、というものです。
ある程度の方向性を技術的に作って、その上で最終調整を進めていくことで、新しい個性を作っていく、という作業を繰り返し進めていきます。
音のプロによる信頼されたチューニング、というのももちろんあると思いますが、ネインとしては、アプリの仕様同様に、ユーザーとのコミュニケーションによって詰めていきます。